不定期日誌


google検索

日記内検索  ウェブ全体から検索

hns - 日記自動生成システム - Version 2.19.9

先月 2001年09月 来月
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
HNS logo

2001年09月12日(水) 旧暦 [n年日記]

「これは現実の映像です」

 こういう大惨事のことをしたり顔で語るのって、所詮当事者でない限りは結局野次馬で不謹慎なのだけど、でも日記なんだから何を見たか、何を感じたかくらいは書いておきたい。
 夕べ午後10時頃、IRCで友人がいきなり「貿易センターにボーイングが突っ込んだ」と言い出した。ナニソレ、と思いつつテレビのチャンネルをNHKに合わせると、まさしくそのニュース。貿易センタービルの有名なツインタワービルの片一方の上から1/5辺りの部分にぽっかりと大きな穴が空き、そこから煙が立ち昇ってる。まったく現実感のない光景。このビルの中に人がいて、多分間違いなく突っ込んだ飛行機の乗員全員とビルの中の少なくない人間が死んだという結果も想像は出来るのだが、実感がわかない。しかしNHKのニュースが悪ふざけでこんな映像を作って流すわけがない。キャスターが現地特派員に情報を求め話を交してる。IRCで別の友人が「テロかな?」と言うのを、「まさか」と笑い飛ばした。こんなマンガかアクション映画崩れな行動を取るなど、いよいよ現実離れしてるように思えたのだ。そして十時やや過ぎ、画面に変化が起こる。ぼんやりしてはっきりとは見てなかったのだが、特派員から情報を聞いていたキャスターが「今、もう一機飛行機がぶつかりませんでしたか?」と特派員に呼びかける。特派員がやや混乱気味に状況を把握しようとする。確かにさっきまで火の手が上がってなかったところから爆炎と煙が出ていた。特派員が「そのようですね」「二キロほど離れていて、ガラスで仕切られてるここにも、ボーンという爆発音が響いてきました」などと状況を話し出す。他局でもリプレイ映像が流れる中、情報を待つまでもなく第二の災害である事がわかりだす。この時点では、煙に巻かれた報道関係のヘリか何かが操縦ミスで激突したのかなにかだろうと、そう考えようとしていた。しかし、「突っ込んだ飛行機は双発のジェット機」「ハイジャックされていた可能性もある」などと情報が流れるにつれ自分の考えが甘かったのではないかと思いはじめる。
 十時半過ぎ、米政府の公式発表が行われ、この発表ではっきり「テロ行為」と述べられた。この時はパレスチナ解放民主戦線(DFLP)の犯行だと言われていたのだが、DFLPは約三十分後に犯行とは無関係であることを発表する。とにかくこの時点ではあまりに現実感のない光景が現実に起こってるのだということを納得するのに一生懸命だった。10時50分頃、「ペンタゴンにも突っ込んだ」と情報が。何が本当で何がデマかわからないままチャンネルを変えると、本当にペンタゴンの五角形の建物から煙が吹いている様に見える。事ここに至ると、米国政府の先走りという疑いも吹っ飛び、間違いなくテロだという確信が生じる。
 11時くらいになると、別の友人たちも続々IRCに入ってくる。話題は当然その事しか出ない。丁度その時に「ビルが倒れた!」との文章が流れる。慌ててテレビを見直すと、確かにさっきまであったはずのタワービルの上側がなくなり、代わりに恐らくは粉塵の煙がもうもうと舞っている。それまではまだ冗談交じりに話せてたのが、もう冗談を言う事もできなくなる。いや、そもそも最初から大惨事なんだから、冗談を言うところではなかったのだけど。
 誰の仕業か、何が起こってるか、の情報をIRCでチャットしながらテレビのチャンネルを変えて求めるが、入ってくるのは「連邦ビルも爆破」とか、本当なのかどうなのかわからない情報ばかり。そんな中、貿易センターの救助活動の様子が中継されるのを見る。そしてビルの近くから逃げてきた人のインタビュー。インタビューを受けた黒人の女性の頭から身体にかけて、真っ白になっていて何かと思った。それが倒壊時に撒き散らされたビルの粉塵だと気付くのに数秒かかった。我ながら鈍いとしか言い様がないのだが、しかしこの時にようやく何が起こったか、起こっているか、起こりつつあるのか、それが実感として形作られてきた。映画とかにもビルの倒壊シーンはないわけではないが、こんな粉塵の効果なんてのはまずやらない。役者が映えなくなるとか、観客に何が起こってるのかわからないだろうからとか理由はあるだろうが、私もそれまでそのせいかビルの倒壊時の粉塵なんてのはあまり考えた事がなかった。しかし粉塵が意味するところが理解できるにつれ、実感と理解と想像が結びつきはじめた。
 11時半頃、NHKで二機目の激突とビル倒壊の瞬間が再生映像で放映される。この時キャスターがこう言い添えた。「これは現実の映像です」。映画やドラマやアニメとかでは使い古された台詞で、むしろ陳腐ですらある。NHKのニュースでそんな台詞が出てくることがあるとは想像も出来なかった。そしてやはり、何かその台詞はどこか嘘事の様に響く。しかしようやく感じはじめた実感とあいまって、とにかくそう言うしかないという空恐ろしさがあった。
 この後は邦人の安否の情報や各国指導者などの声明が流れ出す。ハイジャックされた機は11機で4機の所在が掴めないとか、内務省の前でも車の自爆テロがあったとか、とにかく報道も未確認な情報を放送する。ネット上の新聞社のサイトで情報を追確認しようとするが、はっきり言って次々現われる情報の量に更新が追いついてない。即時性の欠落という、ネットのニュース源の弱点がはっきり現われてしまう形だった。
 日付が替わっても、キャンプデービッドにも飛行機が突っ込んだとか、怪情報が依然流れ続ける。信じがたいことが既に起きた後なので一概に嘘とも言えないが本当かどうかもわからないという状況。0時40分頃、「死者は数千人規模」との発表が報道される。最初の事故が起こった直後は「少なくとも六名が死亡…」と控えめな報道だったのが嘘のように思える。1時を回る頃になると、さすがにIRCを抜ける人も出てくる。米国でテロがあったって明日は休みではないのだ。たまたま私は翌日は昼からの予定だったので少し夜更かしをする。2時頃まで起きていたが、新しい情報があまり流れなくなり、さりとて古い情報の確認情報が続々出てくるわけではないのを悟ってこの時点でIRCを抜けて就寝。
 眠かった割に眠りが浅く、ほぼ朝6時起き。テレビをつけると、やはりあまり新しい情報は出ていない。朝7時頃にアフガニスタン首都カプールで火の手が上がり、アメリカの報復ミサイル攻撃ではないかとの報道がなされる。犯人が誰か、という確度の高い情報も流れない中なので半信半疑だが、もし本当にそうだとしたら指揮系統が混乱してるんでは? とIRCに入ると友人が憶測を漏らす。本土攻撃時、主要省庁攻撃時の対処マニュアルは存在するだろうからそれはないだろうと思いつつも、やはり否定しきれない。しかしネット上でミサイル攻撃ではなく、またアメリカではなくアフガンの現行政府への反勢力の仕業のようだとの情報を見て一安心。
 新たな情報がないまま朝支度を済ませネットを抜けて研究室へ。途中への道がむしろ何もなく平和なのが妙に新鮮に映る。
 誰かが言ったが、おそらく今日はアメリカの一番長い日なのは間違いなく、そして長い夜と昼は少なくともしばらくは続くはず。それがどのくらいまでなのかは全く見当がつかない。日本だって、まず株価と為替相場に最初の衝撃波が押し寄せたけど、これから第二波、第三波がじわじわとやってくるはず。対岸の火事なんかじゃ決してない。
 テロ批判とかも色々頭の中から出てきはするけど、今日は書きたくない。