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「シンちゃん、私とひとつにならない?」
綾波がせまってくる。体には着衣はおろか、下着一つも身につけてはいない。
「ど、どうしたんだよ、綾波!」
目のやり場に困り、顔を手で覆いながら指の間から横目でちらり、ちらりと覗くシンジ。
「私とひとつにならない?それはとてもとても気持ちのいいことなのよ」
綾波が一歩一歩近付くのにつれ、シンジは一歩、また一歩とあとずさっていく。
「何言ってるんだよ!僕たち、親子じゃないか!そんなこと出来るワケがないだろ!」
シンジはあとずさりながら叫ぶ。でも本当にそう思ってる?
「どうして?逃げちゃだめなの?」
綾波がさらに問いかける。
「逃げたら、もっと苦しいんだ!逃げちゃ駄目なんだ!」
綾波の手が伸び、シンジの頬に触れる。シンジの体がビクッと揺れる。
「苦しかったら逃げてもいいの。逃げてもいいのよ、シンちゃん」
緊張感を維持しようと務めるが、それでも頬の筋肉が緩んでくるのを止められない。
「そ、そうだよね。親子だからって、我慢しなくてもいいんだよね」息を飲み込む。「それじゃ…」
そう言ってシンジが綾波の肩に手を伸ばすが、綾波の体がすっと後ろに動き、シンジの手から逃れる。
「そう、やっとわかってくれたのね。それじゃいくわよ」
そう言ってそのまま後ろに下がり続ける。
「へ?」
とぅおぉぉぉぉ〜りゃぁぁぁぁ〜〜!!!
呆気にとられるシンジの胸めがけ、勢いよく助走をつけて綾波が飛び込んできた。ドロップキックで両足から。

衝撃と共に目が醒めた。
「シンちゃん、起きなさい、起きなさいってばぁ!」
気がつくと綾波が布団の上からシンジめがけボディプレスの第二段を仕掛けようとしてるとこだった。
「どうせ、こんなことじゃないかとは思ってたんだ…」
この話における自分の立場というものをよくわきまえてるシンジ君はそうつぶやいた。と、同時に情け容赦なく攻撃の第二波がおそって来る。
「うわ!」避ける間もあらばこそ、シンジの胸に強烈な衝撃と、軟らかな膨らみの感触が同時に押し寄せる。しかし後者の感触を楽しむ余裕は、当然ない。
「げほっげっほ」胸にもろにボディプレスを受け、むせるシンジ。
「シンちゃん、まだ起きないの?じゃ、今度は新技のダブルアームスープレックスを…」
「止めてよ!僕を殺す気!?」たまらずシンジが叫ぶ。
「あら、やっと起きたの」綾波があっけらかんと言う。「それにしてもシンちゃん、寝起きが悪くなったわね。こないだなんかいくら起こそうとしても白目むいたまま起きなくなっちゃうし」
そりゃ気絶してたんだって!そう思わず心の中で突っ込んだ。
「小さい頃はすぐに起きてたのに」ふう、とため息をついた後、すぐにぱっと笑顔が広がる。「そっか、ママの「おはようのキス」がなくなっちゃったから起きれなくなったのね?」
「え?」シンジの顔の筋肉が硬直する。
「もう、まだまだ子供なんだから」そう言ってシンジの顔に綾波の顔が迫って来た。
「ちょ、ちょっと…」
慌てて逃げようとするがいかんせんベッドの上、逃げ場がない。
×△〒○×●!!!
唇に軽く触れるだけのキスだが、それでもシンジは悶絶するように絶句する。
「あら、どうしたの?顔が真っ赤よ」
シンジの額に自分のおでこをあてる。またシンジの顔の温度が上昇する。
「あら、なんか熱っぽいわね」さもありなん。もはやシンジは真っ赤になって耳から水蒸気を吹いていた。「体の具合が悪いのかしら」
そう言ってシンジが止める間もなく、掛け布団をめくる。二人の視線がシンジの腰の辺りに集まる。
「あら」男の子の朝の生理現象を確認すると、綾波が口を開いた。「大丈夫、元気みたいね」
もはやシンジに発するべき言葉はない。
誰か僕に優しくしてよぅ。シンジが思わず天を仰ぎ祈ってしまった。
そうしてまた受難の一日が始まった…。

碇君の家庭の事情

「なんや、シンジ、顔色悪いで」
朝の教室でトウジが声を掛けてくる。
「…そう?」
目の下にくまをつくったような、げっそりした様子でシンジが答えた。
「なんや、あんなべっぴんのお袋さんに起こされるんやから、もうちぃとすがすがしい顔してこんかぃ」
だから朝から疲れてるんだよ、そう心の中でつぶやく。
「シンジ、朝から激しそうじゃないか」ぐったりした様子のシンジにケンスケが声をかける。「朝からかぁちゃんを押し倒してきたのか?」
だぁ〜かぁ〜らぁ〜違うって!!!」そう言いながら何度も机に額をうちつける。
がんがんと響く音を聞きながら、ケンスケが笑う。「これだから碇ってからかいがいがあるよな」
「また、そんなこと言って、いじめすぎたらあかんで」
トウジがシンジを庇うように言う。
「でも毎日おはようのキスとかなんかしてもらってたりして…」
ケンスケがまた笑いながら冗談口調で言う。
が、とたんにシンジの顔が真っ赤になる。それを見てケンスケとトウジの表情が凍り付いた。
「え?マジに…なの?」
「ち、違うよ!」シンジがあわてて否定する。「今日だけだって!」
思わず言わずもがなのことを口走ってしまい、はっとして後悔した。が、後悔役に立たずという奴だ。
シ〜ン〜ジ〜!!許さ〜ん!!
いきなりトウジが大魔神の形相で、机を持ち上げシンジめがけ投げつけようとする。
「お、落ち着け、トウジ!人殺しをする気か!」さすがにケンスケが慌てて止めに入った。
「止めるんやない、ケンスケ!毎日おかんのぶっさいくな面に無理矢理おこされる青少年の心の痛み、こいつに思い知らせなワシの腹の虫がおさまらん!!」
「ま、待ってよトウジ!話し合えば判るよ!」
シンジが椅子からころげ落ち地面を這って逃げようとしている。腰が抜けたようだ。
「いんや、お前を殺してワシも死ぬ!!」
そうトウジが痴話話のもつれによる痴話喧嘩みたいなことを口走った瞬間、
ちょぉ〜っと待った〜っっ!!!
と言う声と共に教室の窓を蹴破り、アスカがトウジ目がけ飛びげりを浴びせてきた。
「ひえ!」情けない声と共にトウジが轟沈する。
「な〜にやってるのよ!このインチキ関西弁の熱血バカは!!」
自分の持ち上げてた机の下敷になってしまったトウジを踏みつけ、アスカが罵倒する。
シンジは不思議そうに窓の外を覗きながらつぶやいた。
「あれ?ここ二階のはずなのに、どうやって…」
「男のクセにいちいち細かいこと気にしてるんじゃないわよ!」
アスカが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「いや、でも…」
そう言って窓の外から顔を出し、辺りを見回した。
「ハ〜イ」
そこには屋上からぶら下げたロープにぶら下がってるミサトとヒカリがいた。ミサトは気まずそうにシンジに手を降ってる。
「こんなとこでなにやってるんです、ミサトさん?」
「いやさ〜、アスカがシンちゃんのこと心配してるんだけど、こないだからこっちの学校のチェックが厳しくなってなかなか忍び込めなくてね〜…」
「なんで私まで…」ロープにしがみつきながらヒカリがため息をつく。
「ちょっとあんたたち、何余計なことべらべら喋ってるのよ!さっさとどっか行ってよ!」
アスカが顔を真っ赤にして窓の外の二人に向かって怒鳴った。
「もう、自分が無理矢理引っ張ってきたくせに」ミサトが文句を言う。「それじゃまたね、シンちゃん」
そう言いながらひらひらと手を降ってロープをつたっておりていく。
「くぉら、一階の男子生徒!下から覗くんじゃない!」降りながらミサトが叫ぶ。
「もうやだ…」ヒカリも恥ずかしそうに降りていった。
こほん、とアスカが照れ隠しに咳ばらいをする。「ともかく、今日は三バカNo.1とNo.2に用があって来たの!」そう言ってトウジとケンスケを指さす。「ちょっと来なさい!」
「はいはい」ケンスケが諦めたようにトウジをずるずると引っ張っていくアスカについて、廊下に出ていった。
「なんなんだろ?」シンジは不思議がってつぶやく。
「…でね…」廊下の方からアスカ達のひそひそ声が聞こえてくる。時々ケンスケとトウジが廊下からシンジの顔をのぞき込む。
「せやけどなぁ…」トウジの声が聞こえる。
「文句言わないで私の言う通りにすればいいの!」アスカの叱咤も聞こえてきた。
また暫く聞きとれない声でのやりとりが続いた後、三人が教室に戻って来る。
「それじゃ、頼んだわよ」そう言ってアスカはまた窓の外へ出ていく。
「はいはい、わーったわーった」
トウジが力なく答えた。
三人の不思議なやりとりにシンジが口を開く。「何?アスカ、何の用だったの?」
「センセには関係のないことや」トウジがそっけなく答え、机に戻る。
「そうそう。碇はかんけーないの」ケンスケの態度もそっけない。
丁度先生が教室に入ってきた。不思議に思いながらもシンジも机に戻った。
「えー、今日は転校生を紹介する…はずだったんだが…」教師がため息をつく。「いきなり初日から姿をくらませてなぁ、渚君というんだが、まぁ本人は今ここにいないが、仲良くするように」
「て、転校生だって…」シンジがトウジとケンスケにおそるおそる声をかける。「かわいい子だといいね…」軽い冗談のつもりで言ったが、二人とも反応はなかった。シンジは思わずため息をついた。

「で、あるからして、すなわちそれがセカンドインパクト…」
昼休みのチャイムに数学教師のつまらない授業がやっと中断された。
起立、礼の声と共に、教室が再びざわめきだす。
「トウジ、ケンスケ、食事に行こう」シンジが二人に声をかける。「今日綾波…じゃない、母さんがお弁当作るの忘れて、購買で弁当買わなきゃいけないんだ…」
「一人で行ったらどうや」トウジの意外な一言が返って来る。「ワシらとちごうて、いっつもらぶらぶなかぁちゃんの弁当を食っとるわけだしな」
「そうそう、うちらなんかと、弁当食いたくないだろ」ケンスケも言う。
「な、何言ってるんだよ、二人とも…」慌ててシンジが言い繕おうとする。
「ワシらは淋しく購買部のパンでも食おか」
「行こ行こ。碇につき合ってると変態がうつる」
トウジとケンスケは、口々に言い合いながら教室の外へ出ていってしまった。
シンジは止めようと手を上げたが、やがて力なく下げてしまった。
「トウジも、ケンスケも、友達は…友達と呼べる人は、誰もいなくなってしまった」一人モノローグを始めるシンジ。「アスカはどこにいるのかわからない…」って隣の学校にいるだろ!「でも会って、何を話せばいい?綾波のことか?」綾波の事をアスカに話した時におこりうる事態をふと想像してみた…

「アスカ、完全に制御不能です!」
暴走状態の初号機と化したアスカがシンジに容赦ない一撃を浴びせる!
「碇シンジ、第一宇宙速度突破!月軌道へと移行、回収の手段はありません!」
そしてシンジはお星様になったとさ、めでたしめでたし…

「ちっともめでたくないよ!」自分の妄想に一人突っ込みを入れる。
ぐぅ、とお腹が鳴った。
「悩んでたって、お腹が減る時は減るんだよな…」思わずため息をつく。「購買部でパンでも買ってこよう」
そう言ってシンジは教室を出ていった。

「えぇっっ!?もう売り切れなんですか!?」
購買部でシンジが叫ぶ。
「そうなんだよ。今日は妙に売り切れが早くってねぇ…」三角巾を前にずらした購買のおばさんが、妙に若い声で言う。「もう今日はSOLD OUTなのよ…」
「そんなぁ…」シンジがトホホ顔になる。「ところでおばさん、どこかで会いませんでしたか?声に聞き憶えがあるんですけど…」
「そ、そうかい?」おばさんが冷汗を流す。「そりゃ私ぁこの道三十年、この売場に毎日立ってるからねぇ。ほっほっほっ…」取って付けたような笑い声を出した。
「ふーん」シンジが疑いの眼差しでおばさんを見る。「ま、いっか…」
ほっとおばさんが安堵のため息を漏らす。
「すまないわね」そう言っておばさんが手を振る。「ダンケ・シェーン、またよろしくだわよ」
シンジがその場をてくてくと去っていくと、食堂の片隅でシンジの様子を見ていた二人、トウジとケンスケが購買のおばさんのもとに近寄って来る。
「ホンマにこんなことしてええんか?アスカ?」
トウジの呼びかけに購買のおばさんがすっと三角巾を上げる。
「これもシンジの為なのよ」三角巾の下から現れた顔はアスカのものだった。「アンタたちにすげなくされ、空腹を抱えたシンジが途方にくれたところへ、手作り弁当を持って天使さながらに私が登場するのよ!感謝したシンジは私にこう言うんだわ。『あぁ、アスカ、君こそは僕の天使、いやマリア様だ。一生ついて行きます。犬と呼んで下さい。綾波なんてペペペです!あぁアスカいや、アスカさまぁ〜〜!!』ってね。まさにカ・ン・ペ・キな作戦だわ!そして次回から「惣流さんの家庭の事情」になるのよ!」
自分の計画の酔ったようにめまいをおこすアスカ。トウジとケンスケがあきれてため息をつく。「ようそないな阿呆なこと思いつくわ…」
アスカがトウジの言葉に反応し、キッとトウジを睨みつけた。
「なんか言った!?」
「いんや、別に」トウジがとぼける。「せやけどホンマにこないなことしてよかったんか?ワシ、なんか気がひけるわ」
「何よ!ヤキソバパン十個で手を打ったあんたたちに言われたくないわよ!」
「ま、アスカの手弁当食わされるシンジには気の毒だけど、これもメシの為だ。悪く思うなよ、シンジ」
ケンスケがつぶやいたが、悪く思うなといってもそれは無理な話だ。
その頃空腹を抱えてシンジはトボトボと廊下を歩いていた。またお腹が鳴る。
「お腹すいたな…」
教室に入り、シンジがふう、とため息をついたところで、ふと誰かが口ずさむ歌声が聞こえて来た。それと共に炊きたてのご飯のいい匂いが流れてくる。どちらも窓の外からだった。
シンジがふと窓の外を見ると、目の前にある校庭の木の枝に、この学校の制服を着た少年が座り、昔懐かしいパールライスのCMソングを口ずさんでいる。片手にはお茶碗山盛りのご飯、もう片手にはでっかいしゃもじを持っている。顔を向うむきにしてるので、顔は見えない。
「銀シャリはいいねぇ」少年が言った。「米はお腹を満たしてくれる。日本人の生み出した食文化の極みだよ。そうは思わないかい?碇シンジくん?」
いきなり自分の名前を呼ばれ、驚くシンジ。「え?どうして僕の名前を!?」
「この学校で君の名を知らぬものはいないよ」そう言って少年がこちらを振り向く。美しい銀髪に、赤い瞳、端正な顔立ち。「失礼だが君はもう少し自分の立場というものをわきまえた方がいいよ」
「そ、そうかな…」シンジが思わず顔を赤らめる。

「キー!何なのよ、あいつは!大体シンジも何で顔を赤らめるのよ!」
こっそりと教室の外から覗いていたアスカがヒステリーを起こす。
「そら、この学校で変態三冠王の碇ゆうたら、知らんもんはおらんで」
一緒に覗いてるトウジがつぶやいた。
「だから私が治してやろうってんじゃない!」アスカがトウジに怒鳴る。「大体窓の外であんなことして、バッカじゃない!?」
「そうだな、今日は窓の外から来る奴が多い日だよな〜」ケンスケがポツリとつぶやいた。
「何よ!文句ある!?」
アスカがケンスケの胸座を掴んだ。
「ちょ、ちょっと待てよ!碇、碇」ケンスケがシンジを指して誤魔化す。
「そうだわ!こんなことやってる場合じゃなかったわ!」そう言ってアスカは再びシンジの様子を伺った。

「君は?」シンジが窓の外の少年に聞く。
「僕は渚、渚カヲル。君と同じしいたげられた少年さ」
「え?それじゃ君が渚カヲル君?」渚と言う名前に、シンジが反応する。「転校生の?」
「カヲル、でいいよ。碇シンジくん」少年…渚カヲルが微笑む。
「僕も、その、シンジ…でいいよ、カヲル君」シンジがまた顔を赤らめ、そう答えた。

「キーッ!なんなのよ!あの雰囲気は!」
逆上したアスカがケンスケの首にスイーパーホールドをかける。
「し、知らないってば!」
顔を真っ赤にしてケンスケが答えていた。
「ま、はっきりしとるのはこれでシンジが変態三重苦やのうて、四重苦になったゆうことやろな…」
「いやぁっ!なんなの、それっ!?判んないわっ!」
そう言ってケンスケの首にかけた腕の力を一層入れる。
「く、苦しい…チョーク、チョーク…」
ケンスケが顔を真っ青にしてしてつぶやいた。

「ところでシンジ君、一つ頼んでいいかな?」
窓の外からカヲルが言った。
「え?何?」
「梯子、持ってきてもらえないかい?降りれなくなったんだ…」
涙を目の端に光らせて、カヲルが哀願した。
「さて皆様、私を憶えているかしら」
シンジの学校の前で金髪、泣き黒子の女性が言った。
「あの〜、先輩、誰に言ってるんです?」
研究所の制服を着てファイルを両手に持った少女のようなショートヘアの女性、伊吹マヤがその女性に言う。
「ふ、ブザマね、マヤ。これを読んでる読者はあまりに長いブランクで忘れてるかもしれないでしょ。だから自己紹介でも、ここで一発印象的にやっとけば次回から「赤木さんの家庭の事情」になること間違いなしよ!」
なりません。次回もありません!
「そういうものなんですか?センパイ?」
マヤが真に受ける。
「そういうものなのよ、マヤ」そして再びカメラ目線になる。「私、妙齢23歳…」
「先輩30じゃないんですか?」
マヤのつっこみが入る。
「いいの!女は23から年を取らなくなるのよ!」
「はぁ…」アオリでせまるリツコに、マヤが答える。
リツコが咳ばらいをした。
「私妙齢23歳、才色兼備の碇所長にらぶらぶの天才科学者、赤木リツコとは私のことよ。チャームポイントは左目の下の泣きボクロ。良く憶えておいてね」
「それで私はその助手をつとめる伊吹マヤ。レギュラーの赤木先輩を出し抜いてダントツの人気を誇った最強の脇役キャラよ。次回からこの話は「伊吹さんの家庭の事情」に…」
「ちょっとマヤ!何勝手なこと言ってるのよ!決定稿の段階でも女性オペレーターAにしかすぎなかった癖に勝手なこと言ってるんじゃないわよ!」
「でもやっぱり人気投票の順から行くとやっぱり先輩より私の方が…」
「何言ってるの!次回から「赤木さんの家庭の事情」碇所長と私のらぶらぶな物語!これで決まりよ!!」
どっちにもならんってゆーのに!
「とにかくマヤ、碇シンジ君の身辺調査よ!」
「碇所長の息子さんの、ですか?」
マヤが聞き返す。
「そうよ、まずは彼に私を「お母さま」と呼ばせるのよ!まず小脳塩化カルシウムならば、熊のミノを見よ!というでしょ」
マヤが暫く考え込む。
「ひょっとして、「将を得んと欲すれば、まず馬を射よ」ですか?」
リツコの体が硬直する。科学と言う名の悪魔に魂を売った女は諺、格言に弱かった。
「も、もちろんよ!私の高度なジョークが判らないなんて、マヤ、まだまだよ!」
「そうだったんですか、さっすが先輩!」
マヤは素直に感動している。
「わかったらすぐに聴き込みよ!」
「はい!先輩!」
マヤがたたた、と学校の方に駆けていく。純粋と阿呆は髪一重といういい例である。
「ふふ…これで主役の座も、碇所長の妻の座も頂きね!」
自称23歳の赤木リツコが勝手なことをほざいてる間に、すっと背後に忍び寄る一人の影があった。
「!誰!?」
不穏な気配を察知したリツコが、振り向き様に言う。そこには一人の少年がいた。
「誰なの!?あなた!」
「ふふふ…誰でもいいさ」「彼」は赤い瞳でリツコを見つめて言った。「ただシンジ君に余計な手出しをしようというのなら、黙っていられないね」
唇の両端がきゅうっとつり上がる。
アルカイックスマイルにも似た彼の口の、赤い口腔が覗く。
「!ま、まさかあなた…」リツコがあとずさる。少年が不敵な笑いのままにじりよって来た。「いや、止めて…」
その次の瞬間、リツコの悲鳴が響き渡った…。
「ん?なんだろう?」シンジは手に持ったお米券をぱらぱらともて遊びながら教室でつぶやく。さっき誰かの悲鳴が聞こえた気がしたのだが。「それにしてもカヲルくん、遅いな…」
暇潰しに鼻歌を歌うが、それが何故かパールライスのCMソングになってしまっている。
影響されやす過ぎるぞ、シンジ君!
シンジがため息をつき、先に帰ろうと鞄を持ち上げた所に、がらっと扉が開く。
「あ、カヲルくん」
シンジ以外、人気のない教室にカヲルが入ってきた。カヲルはシンジを見るとにこっと笑った。
「僕を待っていてくれたのかい?シンジ君?」
中性的なその笑顔に、シンジはどぎまぎしてしまう。
「い、別にそういうわけじゃ…お弁当おごって貰ったから、お礼に、これ…」
そう言って全国共通お米券をカヲルに差し出す。
「米殻通帳かい?」券を受けとりながら、お前は戦時中の人間か!?と突っ込みたくなるようなことを言う。「米はいいねぇ。特に魚沼産のコシヒカリは最高だよ。秋田小町もいいよ。山田錦は日本酒に最高だしね。そう思わないかい?シンジ君?」
おいおい、酒ってお前、未成年じゃないのか!?
「いや、僕はそういうの良く判らないんだ。朝はパン食だし…」
シンジが頬を赤らめ、カヲルの方をちら、ちら、と横目で眺めながら答える。
「それはいけないな、シンジ君。パンはバターなどの脂肪分も高いから、健康と美容に気を使うならやっぱり米食だよ」
「そ、そうなんだ。じゃ、そうしようかな…」そう言ってからはっと息を飲む。カヲルの顔がシンジのすぐ目前に何時の間にか迫っていた。
「これからどうするんだい?」
カヲルがいつもの笑顔で聞いてきた。
「い、いや、これから帰ってシャワー浴びて寝るだけだけど…」
シンジは少し腰を引いた。
「ご一緒していいかい?」
「は?」
「シャワーだよ」
「いや、シャワーっていっても家の…」
「一緒にいこう、いい店を知ってるんだ」
限りなく怪しいことを言うカヲルに、シンジが頬の筋肉をぴくぴくさせながら聞いた。
「あの、いい店って、シャワーの?」
「もちろんさ。それじゃ行こう」
カヲルはシンジの手をとり、ずるずると引っ張って行く。
「僕は行くともなんとも言ってないんだけど…誰か助けて〜!」
シンジの叫びが無人の校舎にこだまする。
あぁ、シンジの貞操や如何に!?
以下緊迫の次回へと続く!(次回はないって)
「ちょっと!なんなのよ、あの渚カエルとかいう奴は!」
いきり立つアスカをミサトがなだめる。
「まぁまぁ、アスカ、落ち着きなさいてば」ミサトがグラスを空けながら言う。「カエル、じゃなくカヲル、でしょ」
アスカはキッとミサトを睨み、机の上をばん、と叩く。
「これが落ち着けるというの!?訳判んないこと言う奴が現れて、シンジがマザコン、ロリコン、近親相姦願望に加えてホモなんていう、変態4冠王になろうか、って時に!」
「…アンタ基本的にシンジ君のこと全っ然信用してないわね…」
「あったりまえでしょ!あのぶぁか!」ためらいもせず思いっきり肯定する。「とにかくどうにかしなきゃいけないんだけど、カエルとかいう奴の正体もわからないもの。それを調べなきゃいけないんだけど…」
「だからカヲルだって…」ミサトがぼそっと突っ込む。
「わ、私今週週番だから…」ヒカリが急に席を立った。
「あ、こら、ちょっと待ちなさいよ、ヒカリ!」
アスカは止めようとしたが、ヒカリはそそくさと教室を出ていってしまった。
「逃げたわね…」ミサトがぼそっとつぶやく。
「ところでミサト、なんかお酒臭いわよ」アスカが鼻をひくつかせて言う。
「だいじょぶ、だいじょぶ」ミサトがいつもの調子で手をひらひらさせた。「これ、ノンアルコールのウォッカだから」
「あ、そう…ってどぉこの世界にノンアルコールのウォッカがあるのよ!」
「まぁまぁ、ちょっとした冗談よ」
笑いながら再びグラスに手を伸ばす。
「とか言ってまた飲んでるんじゃないわよ!」
アスカがミサトの手をはたくと、グラスが落ち、中の液体がそこら辺一帯にばらまかれる。
「あ〜あ、もったいない…」
ミサトが心底残念そうに床に飛び散った酒を眺める。スカートにも雫がかかって、アルコール臭いのだがそんなことおかまいなしだ。
「そんな酒なんか後でいくらでも買ってあげるわよ!ミサトにやって欲しいことがあるの」
アスカがミサトに言うが、しかしミサトは後半部分を聞いてはいなかった。
「え?何?買ってくれるの?お酒?じゃ天狗舞の大吟醸かシャブリ、やっぱフランスものよね〜」
「アルコールが入ってれば消毒液でもいいっていうようなヨッパライが酒に拘るんじゃないわよ」アスカがジト目でミサトを睨む。「まぁ、私の言う通りにしてくれたら、なんでも好きなもの、どーんとおごってあげるわよ!」
どん、と自分の胸を叩いてみせた。
「ちょっとここ…」シンジがカヲルにつれてこられた建物の前で呆然とする。繁華街の真中もど真中、見るからに怪しいネオンの輝くその建物は、燦然と輝く看板に
「Hotel Heven's Door」
と書かれている。
「ここがどうかしたのかい?」カヲルがいつもの笑顔で応える。今はその笑顔が限りなく怪しく見える。
「こ、こ、こ…」シンジががたがた震えながら吃る。
「鶏のまねかい?シンジ君は愉快な人だなぁ」
「じゃ、なくって、ここってラブホテル…」
「そうだよ」カヲルがあっさり答え、シンジの肩に手を回す。「さあ、二人で愛を育もう」
「ちょ、ちょっと待ってよ!僕達男同士だよ!?」
「ふふ、男も女も等価値なんだよ僕にとってはね。二人の間に阻むものは何もない、ではいざ…」
そう言ってシンジの手をぐいっと引っ張る。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
シンジが悲鳴を上げるのを見て、カヲルが面白そうに笑ってぱっと手を離す。
「ははは…冗談だよ」そう言って自分の無実を証明するかの様に両手を開いて見せる。
「え?冗談?」シンジが呆気にとられる。
「ちょっとからかってみただけさ。僕の言っている店は、この裏手だよ」
カヲルがそう言ってすたすたと店の裏手へと回り込む。シンジは警戒して3mの距離をキープしたままついていった。
「ほら、ここだよ」
そう言ってカヲルがつれてきたのは近代的な建物のヘルスセンターだった。
「え?お風呂屋?」
「そう、ここは水商売の人とかが帰りによく入ってくとこなんだ。こんなところだから学生はあまり来ないけど、色んな種類のお風呂があるよ。今は丁度すいてるはずだしね」
「なーんだ、そうならそうと言ってくれればいいのに…」
そう言ってシンジが笑い出す。
「ごめんごめん、ちょっとからかってみたかっただけさ…」
「もう、カヲルくんってば、人が悪いなぁ」
二人で声を立てて笑い出す。
「今のところはね」ぼそっとカヲルが言う。
「え?」シンジの笑顔が引きつる。「カヲルくん、今何か…」
「いいや、別に」カヲルがすっとぼけて答える。「それより中に入ろう」

カヲルにつれられて入った浴場は、カヲルが言う通りすいていて、きれいで広々としていた。
「はぁ…風呂がこんなに気持ちいいものだって、知らなかったなぁ…」
湯船につかりながら、シンジがリラックスする。
「君は極端に一次的米食を避けるんだね」
同じ湯船に入ったカヲルがだしぬけに言う。
「え?」
「君は恐いのかい?太るのが。朝食を食べなければ一日の摂取カロリーを減らせられる。でも空腹を忘れることもないよ。人は空腹を永遠になくすことはできない。ただ忘れることが出来るから、人はお米を炊いてご飯をつくるのさ」
「カヲルくんはご飯が好きなんだね…」カヲルの言うことを熱心に聞きながら答える。何を言ってるかよく判らないが、たぶん凄いことを言ってるんだろう。たぶん、世界の巨匠が作った名作映画が訳判らないのとおんなじだ。
ふと時計を見ると、すでに大分時間が過ぎていた。
「あ、もう時間だ」
「もう帰るのかい?」カヲルが残念そうに言う。
「うん。もう帰って寝なきゃ」
「君と?」
カヲルがさわやかな笑顔を浮かべて尋ねる。
「い、いや、カヲルくんは自分の家でだと思うよ」
「僕の家はまだ荷物の整理ができてないんだ。泊めてくれないかい?」
「う、うん、いいよ…」
シンジはうなずいたが、それがとんでもないことの始まりだとは気付くはずもなかった。
カヲルが微かにニヤっと笑った。
「ちょっと、先輩、どうしちゃったんですか?先輩、先輩!」
人工進化研究所の赤木リツコ博士の研究室で、その人、赤木リツコは放心したように宙を見つめていた。
「先輩、どうして何も答えてくれないんです?」
マヤが校門の前に戻った時、リツコは既に放心状態でマヤがなんとかここまで連れて戻って来たものの、再三の呼びかけには全く答えず、座り続けたままだった。
急にばたん、と扉を開けて一人の女が入って来た。
「あ、あなたは…」その人物を見てマヤがつぶやく。
「探したわよ」その女……葛城ミサトが言った。「やっぱり会ったのね彼に」
「あの、葛城さん…」マヤがおずおずと呼びかける。
「何?」
「やっぱり似合いませんよ、セーラー服」
可愛い顔して、きっぱりと言う。
「じゃかしいわぃ!」ミサトが額に青筋立てて怒鳴る。「いいのよ、女は23過ぎたら一歳ずつ若くなってくんだから!」
「さっすが先輩のお友達、言ってることがおんなじ、いえ、それ以上にずうずうしい…」
「ミサト、よくここまで来られたわね」今まで無言だったリツコがぽつりとつぶやく。そしてクスッと笑った。「その恥ずかしい格好で」
「お前まで言うか〜!!」
リツコにつかみかかろうとするミサトを、マヤが必死で押える。
「落ち着いてください葛城さん、先輩がこうなった理由を知ってるんですか?」
マヤの質問に我を取り戻したミサトが襟元を正す。「そう、リツコ、あの少年に会ったわね」
「あの少年?」
不思議そうにマヤが聞き返した。
「渚カヲル、彼の正体を知ってるのね?」ミサトがリツコに問いつめる。
「いいの?ここでの会話は盗聴されてるわよ」
そう言ってくいっと、ドアの方を顎でしゃくる。
マヤがそれを合図にドアを開けるとだだっと人が4、5人まとめて倒れ来んで来た。
「あ、アンタたち…」ミサトが頬をひくつかせながら彼らを睨む。
「いやぁ、ミサトさんのセーラー服姿なんて、珍しいもので、つい…」
研究所の所員の一人、日向マコトが照れながら言う。
「とっとと出てけ!」ミサトがマコトに蹴りをくれて部屋の外へと蹴り出す。
他の所員たちもそれを見て慌ててだだっと逃げて行った。
「本当にいいの?」リツコがにやっと笑う。
「余裕ないのよ!今月は!」ミサトがやけになったように答える。
「またお酒に生活費を使っちゃったのね」
ずき!
「で、お金貸してあげるから調べて来て、とでも頼まれたんでしょう」
ずきずき!全て図星だった。
「それはそうと知ってるの!?知らないの!?」ミサトが誤魔化す様に怒鳴る。
「それではミサトの最悪の思い出と引き替えに…」
「って、あんたはレクター博士かい!」
すかさずミサトの突っ込みが入った。
「ならいいわ。ただで教えてあげる」リツコはそう言って、ふっと言葉を切ると、放心したように宙を再び見つめた。「彼は恐らく…」
「恐らく?」
「ヤヲイのシ者」
ヤヲイのシ者

「ちょっと待ってよ!何でこんなところ↑にサブタイトルが入るのよ!」
流れを中断させられて、ミサトが怒り出した。
「TVを真似したのね。作者にオリジナリティがないから」
呆れたようにリツコがため息をつく。
「ま、あの作者じゃしょうがないわよね…」
ミサトも同意する。
(うるさいぞ、お前たち!!)
「それよりヤヲイのシ者って一体…」
「私も良くは知らないわ」ミサトの問いにリツコが首をふる。
「えーっと、渚カヲル、別名ヤヲイのシ者」いきなりマヤが声を出してファイルを朗読し出す。いきなりのことにミサトもリツコもぎょっとした。「全国の学校を転校して回り、気に入った男の子に目をつけては手を出しまくる。彼に目をつけられた男は誰一人としてその魔の手から逃れられず、故に「ヤヲイのシ者」の二つ名を持つ…」
「く、詳しいわね…」ミサトが冷汗を垂らしながらマヤに言う。
「私、実は「全国ショタ同盟」の会員なんです」てれっとしながらマヤが言う。「ほらほら、シンジ君のこともちゃんとこのファイルに載ってるんですよ」
ミサトとリツコがマヤのファイルをのぞき込む。
「あらやだ」
「本当だわ」
「それだけじゃなくって会誌の「月刊半ズボン」の発行とか、可愛い男の子の盗撮写真の通販もあるんですよ」
そう言って男の子の着替え中の写真を見せる。
「マヤってば、そういう趣味だったのね…」リツコが意外そうに言う。
ミサトが眉間にしわを寄せて頭を抱え込んだ。「もーどいつもこいつも…」
「ショタ同盟のブラックリストにも渚君は載ってるんですけどね、何故そんな成功率を誇ってるのか、誰も知らないんですよ」
「知ってるわ」リツコがぼそっとつぶやく。
「え?」
「私は知ってしまったの。彼の恐ろしい秘密を…」
「秘密って一体何なの!」
ミサトがリツコの肩を掴む。リツコはじっと見つめるミサトの目から視線をそらした。
「長いの…」頬を朱に染め、リツコが言う。
「な、長いのって…まさか頬を赤らめて言うなんてことは…」
ミサトがたじろぎ、一歩引く。リツコがこくっと顔を更に赤らめてうなずく。
「もう、私、碇所長に顔向けできない…」
「ちょ、ちょっとそれってやっぱりアレなの?」
「そうアレなのよ」
「アレって、アレよね…」
「そう、アレと言ったらアレなのよ。彼のアレはとっても長くって立派で…」
ちょぉぉぉ〜っっっと待ったぁ!」ミサトが叫ぶ。「この話は一応ラブコメってことになってるのよ!そこへいきなり長いだの立派だの太いだのたくましいだの硬いだの節くれだってるだのへそまで反り返っているのなんて言った日には世間様になんて申し開きしたら…」
「とっても長くて立派だったの!彼のは!!」
「へ??」ミサトが呆気にとられて聞き返す。
「そうよ、恥ずかしいから何度も言わせないで!」
リツコが首筋まで真っ赤にして、顔に手をあてていやいやをする。
「いや、あのはずかしいって…」
ミサトが呆れて言うのも聞いていない。
「すさまじいまでの長さを持った舌!常人の1.5倍はあるわ!しかも長いだけではないの。その器用さはサクランボの枝を結ぶどころかちょうちょ結び、いえ、水引きまで作ろことが可能なのよ!正に人間国宝!
「はぁ…人間国宝ってより、万国びっくりショーね…」
「まさか、まさかあんな子供のキスだけでイカされてしまうなんて…もう私の純潔は奪われてしまったのだわ!ごめんなさい、碇所長!」
「30女が純潔も何もないわよ」わっと泣き出すリツコに、けっと吐き捨てて言う。
「殺したいのなら殺して。いいえ、殺してくれるとうれしい…」
「はいはい、勝手に死んでちょうだい」ミサトがいかにもなげやりに答える。「それにしてもまさかそんな秘密兵器があったとはね…」
「驚きですね、葛城さん」マヤがミサトに言う。
「そう、これは是非…」
ミサトが言いかけた後を、マヤが受け継ぐ。
「そう、是非試してみなければ…」
「そう、是非彼のテクを試して…じゃ、なくってぇ!」
ミサトがマヤに青筋立てて迫るが、マヤは聞いてはいない。
「不潔」
「不潔も何も、あんたが言ったんでしょ!そうじゃなくってシンジ君に知らせなきゃ彼が危ないって言おうとしたの!」
「え?シンジ君も交えて三人でですか?不潔すぎます、そんなの!」
「何処をどう取ればそうなるのよ!だから私はアスカのために…」
「え!?その上惣流さんまで交えて!?」
「だからちがうっちゅーに!」
「いやー!近寄らないで!妊娠しちゃう!!」
「人の話を聞け〜っっ!!!」
「ってワケなんだけど、いいかな、父さん、母さん」
シンジがゲンドウと綾波に向かって言った。
「え?何が「と、いうワケで」だったかしら?」
綾波が帰ってきたばかりのシンジに聞き返す。
「駄目だよ、綾波。「と、いうワケで」と始まったらもう状況は説明したことになってるってお約束なんだから」
「あら、そうだったのね。ごめんなさい」
謝る綾波の肩をゲンドウが抱き寄せる。
「気にすることはない。君が悪いのではない。このバカ息子が悪いのだ」
「違う!悪いのは僕じゃない!文才のない作者が悪いんだ!!」
悪かったな。
「それより僕はどうなったのかな?」
カヲルがにこにこしながら尋ねてくる。
「あぁ、そうそう。渚カヲル君を家にお泊めするって話だったわね。ご両親にちゃんと了解を取ってるのなら、母さんはいいわよ」
「問題ない」ニヤリとしてゲンドウもそう答える。
「父さん、その意味のない「ニヤリ」は止めてよ」シンジが肩を落して言う。
「ではお邪魔します」カヲルがそう挨拶をする。
「あら、礼儀正しいのね」綾波が感心して言う。「引っ越して来たばかりでつかれたでしょう?荷物を置いてきたらすぐ食事にしましょう」

と、いうわけで…
「ごちそうさま」
カヲルの声にシンジが怪訝な顔をする。
「あれ?もう食事おわったんだっけ?」
「やだなぁ、シンジ君。さっきおばさんの手料理を食べたばっかだろう?」
そう言って空になった食器を示す。
「ずいぶんはしょられた気がするんだけど…」
「気のせい気のせい」カヲルが笑って答えた。
「じゃ、今日はもう遅いから寝なさい」
綾波が二人に言った。その時、不意に電話のベルが鳴った。
「はい、碇です」受話器をとって綾波が答える。「はい、え?はい、はい、わかりました。すぐそちらにいきます」
そういって電話を切るとシンジとカヲルの方を向いた。「大変なの、急に伯父さんが倒れられたんですって」
「え?伯父さんが?」
シンジが驚いて答える。
「意識不明で今夜が峠なんですって。私たちもいかなきゃ…」
「うむ、そうだな」
ゲンドウがお茶をすすりながらのんびりと言う。
「なに落ち着いてるんです!あなたのお兄さんでしょ」
「君はもてるからな…」
「わけ判らないこと言ってないで早く着替えてください!」
なんやかんやであわただしく準備が済んだ。
「ごめんなさいね、カヲル君。せっかく来てくれたのに」
玄関で靴を履きながら綾波がカヲルに向かって言う。
「いえ、おかまいなく。」カヲルが意味深な笑顔で答える。
「私たちが明日まで帰らないからと言って、あまり夜遅くまで起きてちゃだめですよ」
「わかってるよ」
子供に言い聞かせるように言われてシンジがふくれっ面で答える。
「じゃ、戸締りお願いね。いってきまーす」
相変わらず無愛想なゲンドウを引っ張って綾波が出ていったあと、家の中にはシンジとカヲルだけになった。
「…あの、カヲル君…」
部屋に戻ったものの、何を話したら良いのかわからないシンジが、ぎこちなくカヲルに話かける。
「なんだい?」
「もうそろそろ寝ようか?」
「え?もう寝るのかい?」
カヲルがやや不服そうに言う。
「いや、だけど綾波…いや母さんも早く寝るように言ってたし…」
「何言ってるのさ。夜はこれからだよ」
そう言ってカヲルはシンジに近付いてくる。
「でも、ぼくたち学生だし…」シンジがなんとなく体を引く。
しかしシンジの言うことをカヲルは聞いていなかった。「そうだ、プロレスごっこなんかどうだい?いいだろう?」
そう言ったかと思うといきなりカヲルはシンジをベッドの上に押し倒す。
「!ちょ、ちょっと待ってよ、カヲル君!プロレスごっこじゃないの!?」
「そうさ、ベッドの上でするプロレスさ」
いけしゃあしゃあと答える。流石に鈍いシンジも四肢をがっしりとおさえられ身の危険を感じた。
「カヲル君!おねがいだから離してよ!」
「ふふ…暴れる姿もかわいいよ、シンジ君」
「やめてよカヲル君!僕たち学生で、しかも男どうしじゃないか!」
「どうして?」カヲルが意外そうな顔で聞き返す。「君は僕を嫌いなのかい?」
「え?い、いや、嫌いって言うか…」真顔で聞かれてシンジはたじろいだ。「そんなことはないけど、でも…」
「君は愛の形を性別や年齢で限定するのかい?」
「え、いや、それは、その…」
強気に出られるとシンジは何も言えなくなってしまう。
「僕は君のことが好きで、君も僕のことが好きなのに、愛を語り合っちゃいけないというのかい?」
「っていうかその…」
シンジのしどろもどろの声も次第に小さくなっていく。
「二人の愛さえあればその間の障壁なんて小さなものさ。君が心を開いてさえくれればね」
「そ、そうなのかな…」暗示にかけられたようにシンジがつぶやく。
「と、いうわけで、さぁ碇くん、僕の気持ちを受けてくれたまえ」
そう言って押さえつけられたシンジの顔の前にカヲルの顔が迫ってくる。
シンジはカヲルの手を跳ね除けようとしたが細腕のわりに意外に強い力で跳ね返すことができなかった。
『うう、僕ってばやっぱりカヲル君にキスされちゃうのかなぁ。それともヤオイ本みたく、ぴーっまでやられちゃうのかなぁ。でも最初は痛いけど慣れると気持ちいいっていうし…』
切迫した状況の割に悠長なことを考えているシンジの耳に、怒号が入ってきた。
「そこまでよ!」
パリーン!とガラスを割って何者かがカヲルめがけ飛び蹴りをくらわす。カヲルは瞬間的に身を翻し、間一髪闖入者の襲撃を躱した。
「もうあんたの思い通りにはさせないわよ、ヤヲイのシ者!」
見事に着地したその影はすくっと立ち上がり、腰に手を当ててカヲルを見下した。
「ふーん…僕の異名を知ってるとは…しかも今の蹴り、なかなかやるね?」
カヲルがいつもの涼しい笑顔でその人物を見上げる。セーラー服に顔には目元を隠すマスクをつけている。が…茶色がかった髪の色といい、赤い髪留めといい、偉そうな態度といい誰であるかもうバレバレである。
「シンジに何をしようというの!シンジをどこへやったのよ!」
「いや、シンジ君はさっきから君の足の下でうんうんうなってるんだけど…」
カヲルの言葉にはっとした謎の人物は足元をみた、と、カヲルが彼女の蹴りを避けたため、巻き添えをくらって踏みつけにされてるシンジの姿がそこにあった。
「きゃー!シンジ、大丈夫!?」
慌ててシンジを助け起こす。
「う、うーん…」
目を回していたシンジが息を吹き返す。
「よくもシンジをこんな目に…もう許さないわ!」
シンジを放し、カヲルをにらむ。いきなり放り出されたシンジはベッドの角に頭をぶつけ、また気絶してしまった。
「あぁ、シンジ!一度ならず二度までも…」
そう言って睨む彼女にカヲルが呆れて言った。
「いや、今のもさっきのも君がやったんじゃないか…」
「黙んなさいよ、言い訳なんて聞く耳持たないわ!」
本当にもはや聞く耳持たない状態である。
「あ〜あ、また勝手なことを言ってるわね」
謎の人物が蹴り破った窓から、ミサトとマヤが顔を出す。
「裏方は黙ってて!」
「はいはい」
仮面の少女の一喝に、呆れたようにミサトが返事をする。
「そうよ、決して許せないわ。たとえゼーレが許しても、この私が許しません!」そう言って少女がぱっとポーズを取る。が、しばらくそのまま何も起きない。場が白けたようにしーんとしてしまった。
少女は暫くポーズを取り続けたが、やがて額に青筋を浮かべてつかつかと窓に歩み寄った。
『ちょっと、ミサト!ちゃんと打ち合わせどおりにやんなさいよ!』
少女がミサトに小声で抗議する。
『えー、アレ、まじにやんの?』
ミサトが頭を掻き、照れながらあらぬ方向を見る。
「あのー、もういいかい?」
カヲルが彼女らに話し掛ける。
「うるさいわね、今取り込み中よ!」
少女がいらいらして答える。
「そっちがお取り込み中なら、こっちは続きをやるけどいいかい?」
「もう、うるさいわね!勝手にすれば…って、ちょっとだめ〜!!」
いきなり気絶してるシンジの服を脱がせにかかったカヲルをあわてて止める。
『いい!?ともかく打ち合せ通りにやるの!』
「へいへい」
ミサトが完全に心ここにあらずといった様子で答えた。
少女はミサトの返事を待たず、さっきの立ち位置へもどり、先ほどと同じポーズをとる。
「続きから行くわよ。日本国内務省が許しても、この私が許しません!」
「ちょっと、さっきと台詞が違うわよ、アス…」
「わーっ!わー、わーっ!!」
注意するミサトの声に、慌てた少女の声がかぶさる。「そんなことどうでもいいの!それより私はそのなんとかさんじゃなくって、美・少・女・仮・面!
「はいはい、わっかりやした、美少女仮面様」
完全に投げやりだ。
「ともかくこの私が許しません!」
三度目の正直、今度はポーズと共にミサトとマヤの操るスポットライトが少女を照らす。
「愛ある限り戦いましょう!美少女仮面、ドイツナ・ソウリュウ参上!
美少女仮面がポーズを決めた瞬間、シンジが再び息を吹き返した。「う、うーん…」
正気を取り戻したシンジは、ポーズを決めてる彼女を見上げた。
「…なにやってるの、アスカ?」
その場を一瞬、ひゅーっと冷たい風が吹く。
「ちょ、ちょ、ちょっと、バカシンジ!何言ってるのよ!私は美少女仮面ドイツナ・ソウリュウだって言ってるでしょ!」
アスカ…いや、ドイツナ・ソウリュウが真っ赤になってシンジにつかみかかる。
「え?だってアスカだろ?」
「なななななななななななにいってるのよこここここここここの私が世紀の天才美少女の惣流・アスカ・ラングレー様なわけないじゃない!」
否定する言葉と裏腹にろれつがまわっていない。
「いつもあの調子なんですか?」
マヤがミサトに尋ねる。
「まーねー。でも少しは恥ずかしいって感覚があったみたいねー、さすがに」
ミサトがぽつりと呟いた。
「あのー、いいかな?」一人蚊帳の外に置かれた形のカヲルが話し掛けてくる。「ところで、自分で『美少女』とか名乗って、恥ずかしくないかい?」
「ぜ〜んぜん」これにはきっぱりはっきりと答える。「だって本当のことだもの」
「で、気は済んだかい?」カヲルが尋ねる。
「まーね」
「じゃ、僕はこれからさっきの続きに入るから」
「あ、取り込み中悪かったわね。それじゃ…ってだから待て〜ぃ!!!」再びシンジを脱がせにかかったカヲルを止める。「いいかげんにしなさい!このヘンタイ!!」
「君に言われるとは心外だな」カヲルがむっとした様子で答える。
「そりゃもっともだわ」ミサトが相づちを打つ。
「外野は黙ってなさいよ!」アスカ…もといドイツナ・ソウリュウが怒鳴った。「だいたいヤヲイのシ者だかなんだか知らないけど、男同士でなんて不健全極まりないわ!」
「そーそー、そのとおり」ミサトが声援を送る。
「どうして?」
カヲルが真顔で答える。
「いや、どうしてって言われても…」
ミサトが返答に窮した。
「大体肉体の性表現なんて、たった一つの染色体で決まる不安定なものに魂まで縛られるなんて理不尽だとは思わないかい?燃え盛る愛はいかなる障壁をも融かし尽くす。ランボーとベルレーヌだってお互いの才能を敬愛すればこそ、禁断の愛に燃えたのさ。愛こそは至高の芸術、それを肉体などというかりそめの器にこだわって否定するなんて、悲しいことだよ。現にアメリカのカリフォルニア州ではゲイ同士の結婚が認められているし、ちゃんと医師の診断があれば性転換手術も可能なんだよ?」
「う゛…」ミサトが舌戦に押されて一歩引いた。「言ってることは一見もっともなんだけど…」
「でも彼の場合、それ以前の問題だって気もしますね」
マヤが言う。
しかし得意満面でとうとうと説くカヲルをいきなり後ろからの蹴りが襲った。
「えらそーな事言ってるんじゃないわよ、このヘンタイが!」美少女仮面が後ろからカヲルに蹴りを入れている。カヲルはつんのめって前倒しに倒れた。「男同士の行為なんて精子とカウパー氏液とグリコーゲンの消耗なだけよ!大体何の生産性もない行為に没頭して産めよ増やせよ富国強兵に貢献できない人間に人権なんてあると思ってるの!?人生の表街道を歩こうだなんてだいそれたこと考えるなんて勘違いもはなはだしいわ!!」
続けざまにカヲルに蹴りを入れる。
「ちょっと、そういう一部の方々からヒンシュクを買いそうなことを…」
ミサトが慌ててドイツナ・ソウリュウを止めようとする。
「うるさいわね!今日の私は少年エース97年1月号の貞本先生のコミックバージョンなのよ!誰にも止められないわ!!」
「あぁ、またアスカが訳判んないことを…」
「アスカ、じゃなくってドイツナ・ソウリュウだってば!!」
アスカがミサトにつめよった。
「アスカじゃなくって美少女仮面だって言ってるでしょ!!」アスカが再び吠えた。「大体ネタにつまって散々原稿を遅らせて、先行するもう一本の話の方じゃあたしを精神崩壊に追い込んでその後遺症で暫く話が書けないなんて称して、しかも風邪までひいて一月以上ぐーたらしてその挙げ句にこんな濃いネタ思い付いたイカレトンチキはどこのどいつよ!」
(私です、すいません。)
「あぁ、アスカが、アスカが毒電波と会話してるぅ〜!!」相手もいないのに一人で呟いているアスカを見てミサトがパニックに陥った。
「だーれが頭に埋め込まれたシリコンで宇宙人からの電波の命令受けてるですって!?」
「誰もそこまで言ってないわよ…」
ミサトがアスカに襟首とっつかまえられてる傍らで、カヲルがシンジをやさしく愛撫していた。
「シンジ君、怖がることはないさ。ほら、僕に全てを任せて…」
「駄目だよカヲル君、男同士で…あ、そんなとこ…あっ、そんなことを…あ、あっ!…!!」
「アンタたちは止めろ、って言ってるのがわかんないの!?」
アスカがふたりもろともげしげしと蹴りを入れる。
「痛い、痛いよ!アスカ!」声を上げるシンジ。
「問答無用!」
アスカがかまわず蹴りを入れ続ける。
と、カヲルが蹴りを入れるアスカの脚をつかみそのすらりと伸びた脚をぺろり、となめた。
意外な反撃に、アスカは総毛立って後ろへと飛びすさった。
「な、な、な、何するのよ、ヘンタイ!」
「嫉妬とはみっともないな、ドイツナ・ソウリュウ君!」
カヲルがアスカを指差し糾弾する。
「だだだだだだ誰がしししししし嫉妬してるのよ!」
アスカが真っ赤になって否定する。
「君を打ち負かしてシンジ君をものにするのは簡単だが、そんなことをしてシンジ君の愛を勝ち取っても空しいだけだ。と、いうわけで君と勝負がしたい」
「何よ、勝負って」
アスカがカヲルに詰め寄った。
「キスだ」一言、カヲルが言った。
「キス〜!?」
一同がどよめく。
「そう、シンジ君とキスをして、どちらがよりシンジ君に幸福を与えられるか。勝負に負けたものは潔くシンジ君から身を引く、どうだい?受けるかい?」
「ちょっと、勝手なこと言わないでよ!」アスカが怒りの声をあげた。「どどどどどどうして私がバカシンジとキキキキキキキキキスしなきゃいけないわけ!?」
「ハァン、自信がないんだ?」
カヲルの一言にアスカの耳がぴくっと動く。
「シンジ君を満足させるキスなんか出来る自信がないんで逃げるんだ。じゃ、僕の不戦勝ってことで…」
「判ったわよ!うけてやろうじゃないの!!」
額に血管を浮かび上がらせてアスカが身を乗り出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいってば!」ミサトがアスカを止めに入る。「相手はキス一つで行かず後家のリツコを昇天させたびっくり人間…もといリーサルウェポンよ!まともに勝負したら勝ち目なんか…」
「うるさいわね、やるって決めたの!幼馴染の年月の重み、思い知らせてやるわ!」
「あの〜、ところで当の僕の意見は…?」シンジが恐る恐る言う。アスカがキッとシンジを睨む。「聞いてないよね、ごめん…」シンジは身を小さくして引っ込んだ。
「それじゃ私からいくわよ!」
アスカがシンジに歩み寄る。
「君が先攻かい?ま、そのくらいのハンデはいいだろ」
余裕しゃくしゃくのカヲルの態度にまたアスカがむっとした。
「いい、シンジ!私をアスカだと思うのよ!」
「『と思うのよ』ってアスカじゃないか…」
「アスカじゃなくてドイツナ・ソウリュウ!」
アスカが迫力で押し切る。
「わ、わかったよ、アスカ…じゃなくてドイツナ・ソウリュウ…」
アスカがシンジの顔に自分の顔を寄せる。心なしか手が微かに震えていた。シンジも緊張してアスカの顔を正面から見られない。アスカの顔がシンジの顔の手前、十センチ程のところでとまった。アスカの唇が逡巡するかのように動く。
「どうしたんだい?やらないのかい?」
カヲルが笑いながらアスカに話し掛ける。
「う、うるさいわね!すぐに済ますわよ!」
アスカが怒鳴りかえした。
アスカが真剣な表情でまたシンジの方に向き直る。また顔をさっきのところまで近づけた。
シンジが思わず目をつぶる。しかしだんだん近づいてくるアスカの顔が、手前数センチほどの所で再び止まった。シンジが薄目を開けてアスカを見る。
「息が…」アスカが顔を真っ赤に染めていた。なんかいつも見てるアスカの顔と違う。はじらいにそまって、なんか可愛い、なんて思ってしまった。
「え?」シンジが聞き返す。
「鼻息がくすぐったいのよ…」
そう言ったかと思うと、シンジの鼻をいきなりつまむ。びっくりして思わず開いたシンジの口を顔を真っ赤にしたアスカの口が覆った。
おぉ…、ミサトとマヤの口から歓声がもれる。
シンジの方は最初ただ真っ赤になってるだけだったが次第に顔が青ざめてき、しまいにはそれすらも通り越して皮膚がチアノーゼの紫を呈してくる。
ちゅぽん、と音を立ててアスカが口を離す、と同時に酸欠をおこしたシンジが後ろにばたんと倒れた。
「ど、どう!これで私の勝ちね!!」顔を真っ赤にして息を切らせたアスカがふんぞりかえってピースサインをつくって見せる。「ご覧の通りシンジは見事、極楽気分よ!」
「ちょっと、アスカ…シンジ君窒息してるわよ」
ミサトがこみかめをおさえて呆れ顔を作る。
「え?」アスカが崩れたシンジを見下ろす。「きゃー!シンジ!大丈夫!?」
「本当に天国にいっちゃったみたいですね」
マヤがアスカに抱きかかえられるシンジを見てぼそっと言った。
「よくもシンジを…許さないわよ、ヤヲイのシ者!」
「だからもうそのパターンはいいってば」カヲルが呆れ果てて物も言えないという表情で言った。「それはそうと次は僕の番だ」
「え?何よ、アンタもやるの!?」
アスカがびくっとして聞き返す。
「勝負はふたを開けてみるまでわからないからね」
「だめーっっ!」
アスカが叫ぶ。
「君だってしたじゃないか。やらなきゃ勝負にならないよ」
「だめったらだめ!シンジと他の誰かがキスなんてずぅぇ〜〜〜っっっったいにだめ〜〜っっっ!!!!」
アスカが半狂乱状態で騒ぎまくる、と、その時そのアスカの頭をハンマーの一撃が襲った。予期せぬ不意打ちにアスカはてもなくくてっと気絶してしまった。
「あ、邪魔ものは静かにさせましたんでどうぞお気になさらず」
ハンマーを手にしたマヤが気絶したアスカを足元にして言った。
「アンタおとなしそうな顔してムチャクチャやるわね〜」
ミサトが大きな冷汗の粒を流して言った。
「え〜、だって美少年同士のカラミだなんてなかなかナマじゃみれないですよ〜」
無邪気にマヤが答える。
「協力有難う」カヲルはマヤに手を振ると、シンジの方に向き治った。「と、いうわけでシンジ君、いくよ」
気絶したままのシンジの顔にカヲルの顔が近付いていった。その時
「シンちゃん、まだ起きてるの〜?」声と共にばたんと扉を開けて入ってきたのは綾波だった。「私ったら忘れものしちゃって…あら?」
そう言ってシンジの部屋を見渡す。部屋の中はアスカの乱入で荒れ放題に荒れていた。しかも床にはシンジとアスカが倒れて伸びている。最悪だ。その場にいる全員が凍り付いた。
「え、いや、あのこれはですね…」ミサトが慌てて弁解をしようとする。
「な〜んだ、皆さんいらっしゃってたんですか」
綾波が明るい声で言った。
「へ?」
綾波の思わぬボケに全員が呆気にとられる。
「う、うーん、あれ?綾波?」シンジが綾波の声で目を覚ます。
「あら、シンちゃん、起こしちゃった?」起き上がったシンジを見て綾波が近付いていく。どこの世界に床の上に白目を剥いて寝てる人間がいるのだろう?「母さん忘れものしちゃって。また病院に戻るけど、ちゃんと寝てるんですよ」
そう言ってシンジの顔を軽く両手ではさむ。
「ちょ、ちょっと綾波…じゃなく母さん!なにするの!?」
「やーねー、おやすみのキスに決まってるじゃない」
「ちょっと、みんなが見てる…むぐっ!」
シンジの口に有無を言わずに綾波の唇が重なる。ミサトたちは目を点にしてそれを見ていた。ぼんっ、とシンジの頭が破裂する音がし、顔を真っ赤にしたシンジが白い煙をふいてその場に倒れ込んだ。
「じゃ、おやすみ、シンちゃん」
そう言って綾波は出ていく。皆は呆気にとられて見送るしかなかった。
「いや〜、ホンモノのマザコンだわ〜」ミサトが頭から煙を吐いて倒れてるシンジを見て第一声を発した。
「まさか僕のキスより強烈なキスがあったとは…」自分のプライドを傷つけられ、狼狽が隠せぬ様子でカヲルが言った。
「あなたのキスになくてさっきのキスにあったものがあるの。それがあなたの敗因ね」
ミサトがカヲルに言った。
「そんなバカな!それは一体…」
「それは『愛』よ!」ミサトがびしっとカヲルを指さす。
一瞬世界が止まり、ぴしっ、と何かがひび割れるような音がした。
「あの、言ってて自分で恥ずかしくないですか?葛城さん?」
流石に背中に寒いものを感じたのか、マヤがすかさずつっこむ。
「ちょっちね…」
ミサトが顔を引きつらせて答えた。
しかしそんな二人のやりとりの傍らで、カヲルががくっと膝をついた。
「そ、そうか、僕のキスには愛がなかったのか!そうかそういうことか、リリン!
「リリンってなによ、リリンって」
ミサトがつぶやく。
「ふふっ…滑稽だな。愛を説くこの僕が愛を説かれるとは…未来に生き残るべき生命体はひとつだけということか」
「こいつもわけわかんないこと言ってるわね〜」
しかしカヲルはミサトの突っ込みを無視する。
「ともかく今回は僕の負けだ…」
カヲルが立ち上がり破られた窓の方へ歩いていった。
「やっとあきらめたのね」ミサトがふぅ、と安堵のため息を漏らす。
「今回は引き下がろう。しかしこの次は必ずシンジ君の愛を手にして見せる」
「おとなしくあきらめなさいってば、アンタは!」ミサトが額に青筋を立てた。
「それではシンジ君、また明日」
そう言ってカヲルは窓から夜の闇へと消えていった。
「まぁた頭痛くなりそうなのが増えたわね〜」ミサトが本当に頭を痛そうに押える。
その時アスカが息を吹き返した。
「うーん…」
「あ、気がついたぁ?」
「なんかさっき頭を何かで殴られた気が…」アスカが頭を押える。
「気のせいですよ、気のせい!」
マヤがさっとハンマーを体の後ろに隠しながら言った。
「アンタいい性格してるわよ」ミサトがぼそっとつぶやく。
「そんな〜、ありがとうございます」
マヤがはにかんで言う。
「褒めてないわよ、誰も」
ミサトがもう何を言っても無駄だ、という表情で答えた。
「と、ところでヤヲイのシ者は!?」
辺りを見回し、カヲルの姿がないことに気付いたアスカがミサトに聞く。
「あぁ、あの子ならおとなしく退散したわ」
「やっぱり!私とシンジの愛が勝ったのね!」
アスカがガッツポーズをとった。
「この場合、そういうことにしておいた方がよさそうね…」
ミサトはそう言って床で伸びてるシンジに目をやる。
「ん?なんか言った?ミサト?」
「べつにー。それよりさっさと退散するわよ」
「判ったわよ」そう言ってまた破れた窓から外に出ていく。そして窓の外から部屋で伸びてるシンジを見てそっとつぶやいた。「おやすみ、シンジ」
喧騒が去っていったあと、一人残されたシンジのいる部屋に、冷えた夜風が吹き込んできた。
「くしゅん!」
シンジは伸びたまま大きなくしゃみをした。

「くしゅん!」
予想外に冷える夜道で、カヲルは大きなくしゃみをした。
「ふ…やはり夜ともなると冷えるね、そうは思わないかい?」
誰に言うともなくポーズをつけてカメラ目線で言う。そして足を止め、ふと夜空を見上げた。
「今日のところは負けたけど、今度はきっと君の心を手に入れて見せるよ、シンジ君」夜空にシンジの笑顔が浮かんでる気がした。「そして次回からこの話は『渚君の家庭の事情〜愛と悦楽の日々』になるのさ」

だからならないって言っとろ〜がっ!!!!






























さて、問題です。今回は何のパロディが入ってたでしょう?(笑)