Episode 8:The Yellow Brick Road
第八章:踵を三度、踏み鳴らし…

その日、空に大きな流星が走った。その姿は世界の半分から見ることができた。
ある者は願いをかけ、ある者は不吉の前兆ととった。そのいずれも正しく、また間違っていた。
しかし、流星の現れた後におこった、太平洋上から登る爆煙は、誰の目にも不吉の前兆と映った。ごく一部の者は同時期に行なわれていた宇宙空間におけるNN爆弾実験との関連性を指摘したが、それに注目している者はほとんどいなかった。
ただ、その流星の巻き上げた水蒸気と粉塵は、あと3年は収まらないだろうと言われ、人々は再び不安に陥った。
そして、さらに重要なのは、その流星を見ていたのは人間だけではなかった、ということであった。

***

「それでは冬月氏の言ったことの裏はとれたの?」
長瀬が病院の長い廊下で、歩きながら資料をめくる。
「8割方は」
側につき従う男が答えた。
「死海文書の方は?」
「そちらも調べてますが、こちらの方は該当するものがないようで…」
「そう…」そう答えて資料を1ページまためくる。
そのページには碇シンジの14才の時の写真がクリップで止めてあった。
「そういえば、サードチルドレン、彼はなぜ東シンジなんて、いかにもばれそうな名前を使ってたんです」
長瀬が男の質問に冷たい一瞥で答える。「もう一度研修を受けなおす?」
「いえ…失言でした」男があわてて前言を撤回する。
「じゃ、仮に君の名前を今から田中文左衛門としましょう」出し抜けに長瀬が言い出す。男はからかわれてるのかと長瀬を見るが、真面目そのものの表情だ。「君を、「文左衛門くん」と呼んですぐに応えられるかしら?」
「文左衛門…ですか」男は困ったように頭を掻く。「できないでしょうね」
「長い間自分の名前として認識してきた名前に対する反応性と言うのは他のものとはかなり違うわ。そのうち慣れはするかもしれないけど、それまでの間不審感をかう可能性は高いわね」
「それで、わざと音の似た名前を、ですか?」
「それだけじゃないけどね」長瀬は後を続ける。「シンジにしたって、東にしたって、関心を引くほど珍しい名前というわけじゃないわ。それに君も言ったでしょう?どうしてこんなばれそうな名前をって」
エレベーターに乗り込むと、まだわかってない男を前に更に続けた。
「普通こそこそ逃げる人間がいかにもっていう名前でいるなんて誰も思わないわよね?事実6144人の調査対象の中に東シンジもいたけれど、真っ先に落されてるわね。もっともこれは調査部の無能を責めるよりも、NERVスタッフの偽造能力を褒めるべきところもあるでしょうけど」
エレベーターの表示が3になる。エレエーターの上昇による軽い圧迫感から解放された。
異常はエレベーターを降りてすぐに気がついた。
「おい、看護婦を呼べ!いや、医者か?!」
トードが長瀬を見つけるなり叫ぶ。
「どうしたの!?」なぜここにトードがいるのか、という疑問もあったが、それよりもトードのただならぬ雰囲気の方が重要だった。そしてトードのすぐ側にいる少女に気付き、けげんな顔をする。「あなた、確か…」
「いいから医者だ!患者が急に興奮したんだ!」
トードが声が長瀬の言葉を遮る。
この階に収容してる患者は一人しかいない。トードが続けて怒鳴るので、長瀬は部下に医者を呼ぶように、と言うと廊下の奥へ向けてずんずんと歩いていく。
「おい、早く医者を…」
「今呼びにやらせてるわ」
呼びかけるトードに対し、長瀬は冷たく応える。
長瀬の目指す場所は、言うまでもなく、惣流・アスカ・ラングレーの病室だった。
ただ一つ、「惣流・アスカ・ラングレー」と書かれた名札のみのかかった病室の前に来ると、扉を手で軽く引いた。扉は抵抗もなく開く。
回りにカーテンの引かれたベッドの前で、椅子に座ってぼけっとしていたシンジが気配に気付き、振り向いた。
「あ、長瀬さん…」
がっかりしたような、不安気な声をあげる。
「惣流・アスカ・ラングレーがどうかしたの?」
「いや、それが…」
その時、カーテンからアスカが顔をぴょこっと出した。
「誰?加持さん?!」期待に満ちた声で言ったが、しかし見なれぬ女性を見つけて眉をしかめた。「誰?」
いきなりなことに流石の長瀬も呆気にとられた。セカンドチルドレンの状態はすぐには治らないと言われたはずだ。しかし、今の彼女の状態は、正常な反応に見える。
「アスカ・ラングレー…」アスカを見て、長瀬が驚愕し、つぶやく。「治ったの?」
「アンタまでこのバカシンジと同じようなこと言うの?」アスカが不機嫌になって言う。「それにアンタ誰?加持さんやミサトは来ないの?」
「加持?ミサト?」長瀬は怪訝そうに繰り返した。そして、三年前に消えた元調査部の人間と、行方不明のNERVスタッフの顔を思い出した。
「あの、アスカ、それは…」
シンジが口を挟む。状況を説明しなければならない。しかしどうやって?とたんに口ごもった。
アスカがシンジの顔を不審そうに見ている。
しかしその窮状を救ったのは以外にも長瀬だった。
「加持リョウジと葛城ミサトは、現在アメリカに出向中よ」長瀬がそれが当然という風に言う。「私は留守の間、あなた達を任された長瀬ヒロコと言います」
しかしアスカは後半部は聞いてなかった。「アメリカへ出向?加持さんがミサトと?」いらついた声で言った。「そんなの、聞いてないわよ!」
「でしょうね、あなたが寝てる間にいろいろあったから」そう言って冷たい視線をアスカに投げつける。その視線には一種の憎悪が込められてる気がした。「ともかく、葛城三佐は現在留守です。その間のことは一切私が…」
「三佐?」アスカの顔がまた不審感に曇る。「何言ってるの?ミサトは一尉でしょ?」
はっとしたように長瀬がアスカを見つめる。アスカも不機嫌そうに長瀬を見つめていた。長瀬はその青い目をじっと覗き込んでいた。
「そうでした。私も本部に赴任して日が浅いので間違えましたね」やがて口を開くとそう言った。
何言ってるの、という顔をするシンジを、長瀬が一瞥する。その一瞥でシンジは何も言えなくなってしまった。
思わず右手で心臓の辺りを掴む。また何か嫌な予感がしていた…。

***

「逆行、ですか?」ロビーのソファで、シンジが長瀬に聞き返す。
「そ。詳しいことは検査の結果待ちだけど、おそらくね」長瀬はピンを外し、髪をほどくと疲れたようにため息をついて目頭を押えた。「どうしてかは判らないけど、彼女はただ外部との接触を拒絶するだけではいけなくなった。でも現実を直視するのも恐い。だから過去に逃げたの。自分が幸せだった頃にね」
「幸せな頃って何時頃のことなんですか?」シンジが聞き返す。
「少なくとも葛城ミサトの昇進以前であることは確かそうね。それ以上は判らないわ」
判らないのはそれだけでない。彼女は何故か、14才の時点に逆行してる。普通は幼児退行とかが見られるはずだ。これは彼女の残った意思力のかけらと見ていいのだろうか…
「長瀬さん、ですよね」一緒にソファに座ってる少女が言った。「前に、お会いしましたよね?」
長瀬が少女の方を向いた。「ええ、そうね」
シンジが驚いたように二人を見る。「どうして?」
「前に言ったでしょう?劇団の子が、綾波レイの振りをして手紙を持っていったって」長瀬がユリを目で示す。「彼女がその時の子よ」
ユリがシンジから顔をそむける。
「そう、だったの?」シンジはユリに聞いた。
「うん」ユリが顔をそむけたままうなずく。「ごめんなさい。黙ってるつもりはなかったんだけど…」
「じゃ、僕と会ったのも…?」シンジがユリに冷たい視線を向ける。
「それは違う!」シンジに振り向いて、ユリが否定する。「本当に偶然だったの!私、あなたの顔も知らなくって、名前を聞いて始めて判って、だますつもりはなかったけど、何から言ったらいいか判らなくて…」
言ってることが支離滅裂になってくのを、シンジはうつむいて聞いてた。
「それは本当よ」長瀬が言った。「偶然だから、私もこんなに驚いてるわ」
「…わかってます」シンジはうつむいたまま、言った。しかし、裏切られたという思いはやはり消えなかった。
「ならいいわ」そう言って長瀬は少女の方に向いた。「悪いけど、あなたはこの後少しつき合ってくれる?」
むしろシンジが驚き、顔を上げた。「どうして!?」
「ただの事情聴取よ。別に変なことはしないわ」
「でも…」
抗議しようとするシンジを、少女が止める。
「大丈夫よ。悪い事したわけじゃないもの」そしてまた長瀬の方を向く。「今日中に、帰れます?」
「そうね。後日また来て貰うかもしれないけど」
長瀬は立ち上がり、ユリに手を差し出した。
「行くわよ」
ユリは黙って立ち上がり、長瀬について病院の出口の方へと歩いていった。
「長瀬さん」シンジは長瀬の背中に呼びかけた。「アスカは、これからどうなるんです?」
長瀬の足がぴたっと止まる。顔だけシンジの方に向けた。
「私が知りたいわ」
長瀬は再び出口へと向かい、シンジはただその場にたたずむばかりだった…。

***

「巡洋艦、「ザ・キング・オブ・サウザンド・ナイツ」大破、沈みます!」
ブリッジに通信兵の声が響き渡る。
旗艦ペンドラゴンの艦長は巡洋艦が真っ二つに折られ、沈んでいくのを呆然と見ていた。
「何がおこってるんだ…」
放心したように呟く。この第13艦隊は現在サルベージ中の「ロンギヌスの槍」の護衛に向かう、その途中だったはずだ。
一体敵の正体はなんなのだ。
「敵、正体未だ不明。いかなる既知の兵器にも該当ありません!」
索敵兵の声を聞き、ではいったいあれは何なのだ、彼は心の中で叫んだ。
「敵、現在戦艦「トリストラム」に接近中!」
「全艦に各個迎撃命令!トリストラムは敵を回避しながら撃破せよ!」
ようやく艦長が口を開く。
懐中に次々と機雷が投げ込まれていく。
爆発で水柱が立ち上り、水飛沫が雨の如く降り注ぐ。しかしそれでもソナー上の敵の姿は真っ直ぐ「トリストラム」に向かっていっていた。
「駄目です!まったく効果が見られません!」
無情の声が響く。
「奴は…モンスターか!?」
うめく艦長の目の前で、敵が「トリストラム」に向けて浮上してきていた。海上にわきたつ波めがけ攻撃を続ける「トリストラム」を破壊せんとしたものは、海中から突き出された巨大な人の「手」であった。

***

「また雨」アスカは病室から窓の外を見ながら呟いた。「嫌な天気よね」
シンジは楽譜を眺めるのを止めて、気だるそうなアスカを見つめ、尋ねる。
「アスカは雨、嫌い?」
「別に。たまにならいいわ」アスカが窓から目をそらすようにシンジの方を見る。「でもこう毎日じゃあ、鬱陶しいわよ」そう言って膝を抱え込む。
ここ連日、ずっと雨だった。先日の隕石により巻き上げられた水蒸気の影響らしい、とは聞いていた。そしてはっきりとしたことは聞いてないが、その隕石の正体が「槍」であるらしいことも、内務省の人間の態度からそれとなく分かっていた。
「槍」を使ってどうするのだろう。いや、それ以前に「槍」をどうやって使う気なのだろう。その答えはただ一つしかなかった。
エヴァンゲリオン。
だとすれば、当然自分やアスカがそれに巻き込まれるのは目に見えている。
「でもいつまで入院してなきゃいけないのよ。もう体の方は全然何ともないってのにさ」
全然、というわけではない。健康体には違いないが、長い間の入院生活で体力の方は衰えている。
「でも、精密検査は必要だし…」
シンジが誤魔化すように言う。実際に精密検査も行うが、カウンセリングがほとんどだ。それと必要な準備期間の時間稼ぎ。惣流・アスカ・ラングレーを受け入れるための。シンジはその事実に嫌悪感を抱かざるを得なかった。
「だからって、もう10日目よ、10日目!」アスカはシンジの鼻先に人差し指を突き付ける。「加持さんからも連絡はないし、ホント、やんなちゃうわ」
「仕方ないよ。仕事なんだから」鼻先を突き付けられたまま、シンジがたじろいで答える。
それが嘘である事をシンジは知っていた。加持リョウジは既にこの世の人ではない。3年前に鬼籍に入っている。それとなくは感づいてはいたが、先日はっきりと長瀬から告げられた。殺された、そうだ。
「だからなおの事鬱陶しくなるのよ!毎日あんたと顔突き合わせるし、ホント、嫌になるわ」
そんなアスカにシンジは思わずクスリと笑う。そして、そんなアスカの態度がどこか嬉しいと感じてる自分に気がついた。
しかしアスカはシンジの笑いを、気味悪がるだけだった。
「な、なによ。何が可笑しいのよ…」
「いや、別に」そう言いながらも笑みがこぼれるのは止められない。「ただ、アスカはやっぱりアスカだな、って思って」
「ど、どうかしたんじゃないの?アンタ?」シンジの言葉にアスカが思いっきり身を引く。「熱でもあるの?」そう言ってシンジの額にてのひらを伸ばす。
「別になんでもないよ」黙ってアスカの手を額で受けながら言う。
「気味が悪いわね」アスカが手を引っ込めた。「付き合ってられないわ。ヒカリにでも電話しようかな…」
「駄目だよ!」シンジがばっと立ち上がる。思わず楽譜が手から滑り落ち、床に散らばる。アスカはきょとんとした顔でシンジを見つめた。シンジは急に自分の声の大きさに驚いたようにたじろいでしまった。「い、いや、機密条項で外部との接触は不可なんだって。その、長瀬さん、が言ってた」
シンジがアスカから目を逸しながら言う。
「ふーん」アスカが疑い深げにシンジを見る。「じゃ、仕方ないわね」
その言葉にシンジは安堵した。今洞木ヒカリの家に電話をしてもつながらない。つながるわけがない。ここは第三新東京市ではないのだから。

シンジは床にちらばった楽譜を集めながら考えた。

一切を隠し通す。それが長瀬の方針だった。アスカの回りから3年の月日を感じさせるものは一切取り除く。ラジオ、テレビ、新聞は、勿論、看護婦、医師に至るまでそれらは徹底されている。
従って外部とのコンタクトも不可。シンジもアスカに余計なことを漏らさないよう厳重に注意されていた。
「特に君は嘘をつくのは向いてないみたいだからね」長瀬はそう言っていた。「気を付けなさい」
無理に現実を見せようとすれば、再び心を閉ざす可能性が高い。だから急激に現実を見せてショックを与えないように。というのが長瀬の説明だった。
シンジは一応納得しながらも、どこか釈然としないものを感じていた。現在、アスカを外で受け入れるための準備が行なわれていた。でも本当にアスカを治す気なら、無理に退院させる必要はないじゃないのか?その疑問は常につきまとっていた。

「このところ見る顔と言えばあんたのつまらない顔ばっか」アスカは憮然とした。「もういい加減見飽きたわよ」
それは事実だ。看護婦、医者の他はシンジ以外しか彼女に接触を許されてるものはいない。いや、あともう一人…
「そういえば、あの長瀬って女。なんかヤな感じよね」アスカが誰に言うともなく言った。「どこか人を見下したカンジがするのよ」
「仕方ないよ」シンジが内心同意しながらも言う。「これから暫くお世話になるんだから。少しは慣れなきゃ」
しかしアスカはシンジの言葉を無視するように大きく伸びをした。
「あーあ、加持さん、早く帰ってこないかなー」
またシンジの胸が痛む。僕は本当のことを告げねばならない時、どう彼女に伝えればいいのだろう?

病院内に、5時になったことを知らせるチャイムが鳴る。
「あ、もう行かなきゃ」シンジはほっとしたように言う。「時間だから」
「え?もう帰るの?」アスカが意外そうに言う。先ほどの自分で叩いた憎まれ口のことなど忘れてる様だ。
「また、明日も来るよ」シンジが微笑んでそう言う。アスカがそんなことを言うなんて、他の人との接触が禁止されてるのが、よほど応えてるらしい。
アスカはシンジに笑顔を見て、はっとしたようにつん、と顔をそらす。「はん、来なくてもいいわよ!まあどうしても来たいって言うんなら、まあ、会ってあげないこともないけどね」
シンジがくすっと笑う。
「な、何よ…」アスカが上目使いにシンジを睨む。
「いや、明日も是非アスカに会いたいよ。来ていいかな?」
アスカがシンジの言葉に呆気にとられる。「か、勝手にすれば?」またぷいっと顔をそらす。
「それじゃ行くから」シンジがアスカの様子に安堵しながら言う。
「あ、ちょっと待ってよ!」椅子から立ったシンジに、アスカがベッドから降りて言う。「そこまで見送るから」
「え?でも外出は禁止…」
「そこのエレベーターまでよ!」アスカが怒ったように言う。「誰がアンタのためにそこまでするもんですか!」
そう言って立ち上がる。足元がふらついて、あぶなっかしい。
「ほら、ぼさっとしてないで、いくわよ!」
「う、うん…」
アスカに促され、歩き出すシンジ。廊下を歩いてる間、二人とも無言だった。
ふとした拍子にアスカがよろけ、手近にあったシンジの二の腕につかまる。アスカはほっと安堵のため息を漏らしてから、自分が何につかまってるか気がつき、急に慌て出した。
「ちょ、ちょっと!気安く触んないでよ!」
「何言ってるんだよ。つかまって来たのはアスカだろ?」
シンジが不服そうに言う。
「とにかく離しなさいよ!」そう言ってシンジの体を突き放し、その勢いでよろよろとよろける。シンジが思わず手を出して支えようとしたところで、壁際のてすりにつかまってかろうじてバランスを取り戻した。
「大丈夫?アスカ?」シンジがおずおずと聞く。
「大丈夫って、何がよ?」アスカが聞き返した。シンジはそこではっとした。アスカは気付いてないのだ。自分の足腰が弱っているのに。気付いてもなんとなく体調が悪い、位にしか思ってないのだろう。
アスカがシンジに距離をおいて歩き出す。シンジもそれを追って歩き出した。
二人とも無言のままエレベーターの前にたどり着く。
「そ、それじゃまた明日、アスカ」
シンジが気まずそうに言った。
「勝手にしたら?」アスカはそう言ってから、はたと気付いた様に言った。「ちょっとシンジ、あんたこんなに背が高かったけ?」
またシンジははっとした。この三年で、二人の肉体的成長の差ははっきり出ていた。今まで正面向かいあって立ったことがなかったから気がつかなかっただけなのだ。
「え?こ、こんなものだったよ。アスカの記憶違いじゃないかなぁ…」
また目をそらす。アスカはじっとシンジの顔を睨んだが、やがて怒ったように吐き捨てた。「さっさと行きなさいよ!」
「う、うん。それじゃ…」そう言って「開」の字が書かれたボタンから手を話すと、エレベーターの扉は閉じられてしまった。
アスカは閉じられた扉を睨んで、思いっきり蹴りつけた。
「一体何を隠してるのよ、アイツは!」

後編に続く

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